御伽噺異聞録3 金太郎引っ張り出される 継姉B売られる
「きんたろーさーん」
シンデレラがそう怒鳴りながら扉を叩きます。
「ちょっと」
継姉Bはその洞窟を見て顔を引きつらせました。
その小さな洞窟(いわゆる熊がすんでいそうな奴です)には扉が付けられており、脇の小さな表札に『やまだ』と下手な字で書かれています。
「・・・ねえ、プーさんの家の表札には「サンダース」って書いてあるの、知ってた?それのパクリ?」
「知らないわ。ねえ、金太郎さん、いませんかー」
うんともすんとも言いません。
シンデレラはふむ、と息をついて腰に手を当てました。
「おかしいわね」
「熊と相撲でもとってんじゃないの?」
「金太郎と仲が良かった熊はバナナの皮で滑った猟師が誤って撃った弾丸に貫かれた雉の鳴き声にびっくりして木から落ちて死んだわ」
「手が込んでる上に面白くない、悲惨なエピソードね」
シンデレラは少し思案している様子でしたが、ふと肯いてひときわ大きい声で言いました。
「私の姉が川に落ちて服が全部魚に食べられて無くなって素っ裸になってしまったので着替えをお借りしたいんです、ちなみに姉はほしのあきに似てます、ていうかほしのあきです!」
「・・・そんなんで出てくるわけないじゃん」
ぎい。
と控えめな音を立てて扉が少し開きました。
「すかさず『シンデレラ・渡る世間は鬼だらけ・キイイイイイイイイイイイイイック!』」
シンデレラの流れるような回し蹴りが扉に炸裂します。
どんがらがっしゃあん。
とアナクロな音を立てて扉が洞窟の中にばらばらに砕けながら吹き飛んでいきました。
何者かの悲鳴が上がり、洞窟の闇の中をばたばたと駆けて行きます、金太郎でしょうか?
「・・・・」
継姉Bは開いた口がふさがらない様子で呆然とそれを見ていました。
「何か言いたいこと、ある?」
「・・・男って」
シンデレラはがっくりきている継姉Bを尻目にずかずかと洞窟を突き進みます。
「鉞かついだ金太郎さーん」
「ちょっとあんた気をつけなさいよ?相手は怪力で熊をも殺す怪人でしょ?」
「ひどい言いようね」
と、暗い洞窟の廊下を抜け、その奥のもうひとつの扉の前にシンデレラは立ちました。
「・・・金太郎さん?」
「お、おら・・・」
扉の中からおどおどした声がか細く響いてきました。
「お、おら、そんただなめじゃねです(私はそんな名前じゃありません)」
継姉Bは眉間にしわを寄せて、首を傾げます。
「・・・何語?」
「訛ってるのよ、じゃああなたはどなた?」
扉の中の気配はしばらく沈黙し、ふと、小さく言いました。
「・・・銀太郎」
「嘘はもっと考えてからつけえええええええええっ!」
継姉Bは鬼のような形相をして1でシンデレラの部屋の扉を叩き壊した500kgハンマーで扉を破壊しました。
「ひいいいいいいいっ!」
「お姉さま、ドア壊すの上手ね」
「あんたは落ち着いてんじゃないわよ!」
と、二人が一歩部屋に足を踏み入れると。
雑多に詰まれたアニメやゲームの雑誌。
散乱したゲームのケース。
床に転がった夥しいカップラーメンの残骸。
壁中に貼られた異常に大きい胸のアニメの女の子の描かれたポスター。
そして、同じキャラクターが壁紙のノートパソコンのウインドウ。
継姉Bはあんぐりと口をあけて呆然と立ち尽くします。
「・・・・なに?これ?」
「たすけてくんなせ・・・たすけてくんなせえ・・・」
部屋の隅から情けなく響くか細い声。
大柄な若い男ががたがたと震えています。
「・・・金太郎さん?」
「ええっ!このオタクが!?」
「やめでぐろ、やめでぐろお、みねえでくんなせえ・・・」
がたがた震えるオタク、金太郎を見ながらシンデレラと継姉Bは暫くその場に立ち尽くしました。
足柄山の金太郎。
彼は幼くして父と死に別れ、母とここ足柄山で暮らしてきたのです。
母をなくし、つづけて友人だった熊を亡くした金太郎は就職しようと町に下り、騎士として王国に仕えようと出向いたのでした。
出向いた先での金太郎の活躍は、筆舌に尽くしがたいものでした。
持ち前の怪力を始めとした、獣相手に鍛え上げた身体能力で重武装の兵達を薪割り用の粗末な鉞一つで叩きのめしたのです。
倒した人数なんと20人、もちろんトップで騎士団の入団実技テストはクリアしたのでした。
クリアしたのでしたが。
その後の面接が問題だったのです、金太郎はこの通りの訛り。
面接官長であった当の王子の。
「俺田舎者嫌い」
の一言で気の毒な金太郎は無碍に追い出され。
それが原因で人間不信となった金太郎は、そのまま、ひきこもり→ネットオタク→人間失格という転落コースをとることとなったのでした。
のだそうです、シンデレラさん。
「ありがとうナレーターさん」
「誰と話してんのよ、誰と」
シンデレラと継姉Bはやっとこ宥め賺して部屋のスミから引っ張り出した金太郎を前にざっと片付けた小さなちゃぶ台で対面していました。
金太郎はそれなりに見れた顔をした男でした。
美男子、というのには少々たくましすぎる印象、偉丈夫と言った所でしょうか。
しかし今は無精ひげに、目の下にはネット隈、イラストがプリントされたティーシャツを着た今の姿は言っちゃ悪いがただのオタクです。
「お、おら・・・あれから、皆がおらのこと馬鹿にすてんじゃねえがって、怖くて怖くて・・・」
継姉Bは背中に陰を落としながらぶつぶつ呟く金太郎に向けて継姉Bは気遣わしげに声をかけました。
「ま、まあ、人って自分が思っているほど自分のことを気にしてないもので・・・」
「でも自分が気にしてないって思うことを人って気にするものよね」
シンデレラの一言に金太郎はずんずん、と背中に影を背負い込みました。
継姉Bがシンデレラの胸倉を掴み上げて憤怒の表情で睨みつけます。
「止めを刺してどうする、止めを刺して、おお?」
「私はただ思ったことを口に出しただけよ」
継姉Bはため息をつき、シンデレラの耳元でこそこそとささやきました。
「どうすんのよ、こんなオタクにその魔狼とかいうの倒せるわけ?」
「怪力は健在だと思うんだけど・・・問題はこの状態ね」
シンデレラは暫く黙考し、はた、と手を叩きました。
「よし、金太郎さん」
金太郎がおずおずと顔を上げます。
シンデレラは満面の笑みで(と言っても顔は灰で見えないのですが)継姉Bの肩を叩き。
「もし私に協力してくれたら、この人をあげるわ」
と言いました。
一瞬の沈黙の後。
金太郎と継姉Bは同時に。
「は?」
と聞き返すのでした。
続く


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